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2008/11/30

日常と懐古の狭間

元来歩き回ることが好きである。
これといった目的など持たず、ひたすらブラブラと街歩きをする。
忘れえぬ場所、愛すべき場所も数多ある。
それは街並みであり駅であり公園であり建造物であり・・・とにかく様々だ。
今回のお題もその中のひとつ。Fi2612822_1e_2


住所は目黒区、京王井ノ頭線で渋谷から2駅目の駒場東大前。
東大教養学部側改札を出て10分ほど歩いた所にあるのがそこ、駒場公園だ。
ほど近くにある代々木公園の広大さとは対照的な中規模の静かな公園。
その鬱蒼とした樹々の中に威風堂々と佇むのが右画像、旧前田侯爵邸の古式ゆかしい洋館である。
ご存知、加賀百万石のあの前田サンですね。
昭和4年の竣工で、東京都の有形文化遺産にも指定されている。
英国テューダー様式に分類されるこの洋館。
華麗なアーチ型エントランスと大時代的にひなびた煉瓦壁が実に美しい。

前田家といえば戦国時代の加賀大納言・利家卿以来の名門。
IT長者なんぞとは長さも重みも比較すべくもない正真正銘の超セレブである。
家一つ建てるにせよ、金をかけるポイントがまず違うのだ。
自己満足は二の次であり、あくまでも他者からの視点に重きを置いている。
したがって仕上がりは否応なく一種の芸術へと昇華する理である。

玄関先には古い洋画にでも登場するような車廻しまであり、室内装飾には目を見張るほど細密な意匠が施されている。
竣工時には陸軍中将の地位にあった当主の前田利為だが、元々は文化人的素養の方が評価される人物であったらしい。
パブリックスペースでは賓客を迎えてラグジュアリーな夜会が行なわれたであろうこの邸宅も、プライベートスペースは意外なほどシンプルで殺風景な事に驚かされる。
書斎に場違いなほど大きな書架があったりする部分など、穏やかこの上ない文人風な趣きが漂っているのである。
これと似たような感覚は、白金にある東京都庭園美術館を訪れた際にも抱かされる。
そちらは戦前の皇族である朝香宮邸を美術館としてリニューアルしたアール・デコ様式の洋館。
建築様式の違いこそあれ、来歴のよく似た御曹司に纏わる共通した一面を垣間見る思いがする。

戦前の上流階級の日常を物語るこの洋館も、戦後間もなく進駐軍に徴収された。
しばらくは極東軍司令官官舎として利用され、返還後は東京都の管理下で近代文学博物館として生まれ変わる。
しかしそれも6年前に廃館。
現在では週末に館内を無料開放しているのみで、近辺の人影もまばらだ。
かつての栄華を控えめに醸し出しつつ、重厚だがあくまでも静寂な姿で存在しているのである。

Fi2612822_2e_2

我々が生きているこの時代。
生活様式に関しては、ハード・ソフトを問わずこれでもかというほどハイグレードなアイテムが満ち溢れている。
“利便性” は日進月歩で止まるところを知らない。
しかしながら、満たされることのない無機質な空虚感も確かに存在する。
何げない日常の中、自分なり社会なりが歩んできた道のりを振り返る時間。
目に見えぬ空想に心動かされる事の豊かさを、物言わぬ古い建物から教えられるような気がする。

“温故知新” などといった小賢しい理由ではない。
文明社会に生きる人間個人の根幹とは、森羅万象を形成するあらゆるファクターの集約だ。
それを知った事のみでも、人はひとつの収穫を得たと思うのである。

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コメント

もう世の中全体に「余裕」が無いからね。
昔のような豪華さを求めるのは無理なのかもね。

私はいつか外車を所有したい、と思っているけど、
それはやはり、最近の国産車には無い
そういう余裕が感じられるんだよね。

ま、心だけでも余裕を持っていたいんだけどね~。

投稿: こうじ | 2008/11/30 17:04

それともその時代のザンギリ頭の人たちが、今のようにモダン建築ということで西洋建築=流行ということでどんどんうけいれたのかあ?

やはりなぜか温かみを感じさせるのは、煉瓦が土から出来ているからなのでしょうかね。東京駅にしろ、小樽の運河、池袋のR大学の建物にしろ何か煉瓦の建物って絵になるし、落ち着くよね。
銀杏の黄色と煉瓦の赤、素敵なコントラストでしたね。

投稿: きた | 2008/11/30 22:06

それともその時代のザンギリ頭の人たちが、今のようにモダン建築ということで西洋建築=流行ということでどんどんうけいれたのかあ?

やはりなぜか温かみを感じさせるのは、煉瓦が土から出来ているからなのでしょうかね。東京駅にしろ、小樽の運河、池袋のR大学の建物にしろ何か煉瓦の建物って絵になるし、落ち着くよね。
銀杏の黄色と煉瓦の赤、素敵なコントラストだね。

投稿: きた | 2008/11/30 22:08

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